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関税ショック第2波、製造業セクターの明暗──リショアリングの勝者と敗者を分ける「国内生産比率」

深澤 理沙2026年3月6日10 min read
関税ショック第2波、製造業セクターの明暗──リショアリングの勝者と敗者を分ける「国内生産比率」

サマリー: 3月4日に発効した対カナダ関税25%・対中追加関税10%が、米国製造業セクターを直撃している。ダウがNASDAQの6倍の下落率を記録した「関税ショック第2波」の構造を読み解き、リショアリング(製造回帰)の勝者と敗者を分析する。

なぜ今、このテーマなのか

3月5日、ダウ平均は-785ドル(-1.61%)と急落した。同じ日のNASDAQは-0.26%。この6倍もの差が、今回の下落の正体を物語っている。

3月初頭の急落はイラン・ホルムズ海峡危機という「外部ショック」だった。しかし5日の下落は質が違う。3月4日に発効した対カナダ関税25%対中追加関税10%が、製造業や素材セクターのコスト構造を根本から揺さぶり始めたのだ。ダウ構成銘柄の中でも、サプライチェーンが北米・中国に深く根を張る製造業系企業が集中的に売り込まれた。

さらに4月2日には自動車関税の免除期限が控えている。関税を巡る不透明感は、むしろこれから本番を迎える。

「オールドエコノミーの逆襲」が止まった日

2026年に入り、米国の製造業セクターは好調だった。工業セクターETF(XLI)は2月中旬に178ドル台の年初来高値を記録。リショアリング需要、インフラ投資法の恩恵、AI関連のデータセンター建設ラッシュ——追い風は複数吹いていた。

ところが3月に入り、風向きが変わった。XLIは直近1週間で178ドル→172ドルへと約3.4%下落。年初からの上昇分の半分近くを吐き出した格好だ。

XLI(工業セクターETF)とは?
S&P 500の工業セクター銘柄で構成されるETF。キャタピラー、GEエアロスペース、ハネウェルなど米国を代表する製造業企業を含み、工業セクター全体の健康度を測る「体温計」として使われる。

象徴的なのがキャタピラー(CAT)の動きだ。建設機械の世界最大手は2月11日に775ドルの高値をつけた後、3月5日には706ドルまで下落。わずか3週間で約9%を失った。カナダからの鉄鋼・アルミニウム輸入に25%の関税がかかれば、原材料コストの上昇は避けられない。市場はそれを素早く織り込みにいった。

関税が直撃する3つのライン

今回の関税が製造業セクターに与える影響は、大きく3つの経路に分けられる。

1. 原材料コストの上昇

カナダは米国にとって最大の鉄鋼・アルミニウム供給国だ。25%の関税は、建設機械、自動車、航空機部品など幅広い製品の原材料コストを押し上げる。キャタピラーやディア(DE)のような企業は、鋼材価格の上昇を製品価格に転嫁するか、利益率を犠牲にするかの二択を迫られる。

2. サプライチェーンの混乱

対中追加関税10%は、電子部品や中間財の調達コストを引き上げる。とくに自動車セクターへの影響は深刻だ。フォード(F)は直近四半期の売上が前年比-4.8%、営業利益率は-6.7%と赤字に沈んでおり、関税によるコスト増を吸収する余力がほとんどない。GM も売上-5.1%と苦戦しており、4月2日の自動車関税免除期限が切れれば、さらなる打撃は避けられない。

3. インフレ長期化と利下げ鈍化

関税によるコスト増は、最終的に消費者物価に転嫁される。米10年債利回りは3月4日に4.09%まで上昇し、2月下旬の3.97%から急ピッチで切り上がっている。FF金利は3.64%で据え置きだが、「関税インフレ」が長引けばFRBの利下げ余地はさらに狭まる。資本集約型の製造業にとって、金利高止まりは設備投資の足かせとなる。

リショアリングとは?
海外に移転していた製造拠点を自国内に戻すこと。「オンショアリング」とも呼ばれる。関税の引き上げ、地政学リスクの高まり、サプライチェーンの脆弱性への反省から、2020年代に入り米国で加速している構造的トレンドだ。

リショアリングの勝者と敗者

関税はすべての製造業を等しく痛めるわけではない。むしろ、米国内の製造基盤を持つ企業には「追い風」にもなりうる。ここが今回のテーマの核心だ。

勝者候補:米国内生産比率の高い企業

ニューコア(NUE)は米国最大の鉄鋼メーカーであり、カナダ産鉄鋼への関税は競合排除という形で直接的な恩恵をもたらす。フォワードPERは12.6倍と市場平均を下回る水準だ。

イートン(ETN)は電力管理機器の大手で、データセンターや再エネ関連の需要を取り込みながら売上成長率+13.1%、営業利益率20.0%と高収益体質を維持している。米国内に広い製造ネットワークを持ち、関税の影響を受けにくい。

ロックウェル・オートメーション(ROK)は工場自動化(FA)の専業大手だ。リショアリングで新工場が建設されるたびに、その自動化システムの需要が発生する。売上成長率+11.9%は、まさにその需要を反映している。

敗者候補:北米・中国サプライチェーン依存企業

フォード(F)GMは、カナダ・メキシコとの部品の行き来が生産の前提となっている。USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の枠組みの中で最適化されたサプライチェーンが、関税によって経済合理性を失うリスクがある。

キャタピラー(CAT)は米国内生産比率が高いものの、鉄鋼・アルミの原材料調達でカナダへの依存度が大きい。時価総額3,304億ドル、トレーリングPER37.6倍と、すでに高い成長期待が織り込まれている中でのコスト増は、バリュエーション調整の引き金になりうる。

データで見る──製造業セクター主要企業比較

企業ティッカー時価総額PER (予想)売上成長率営業利益率関税影響
GEエアロスペースGE3,449億$38.2倍+17.6%19.5%中(部品調達)
キャタピラーCAT3,304億$25.6倍+18.0%16.0%大(原材料)
ディアDE1,595億$25.5倍+13.0%9.3%大(原材料)
イートンETN1,381億$23.1倍+13.1%20.0%小(国内生産)
トヨタTM2,887億$14.0倍+8.6%8.9%中(米国現地生産)
GMGM711億$5.5倍-5.1%6.5%大(北米SC)
フォードF492億$6.7倍-4.8%-6.7%大(北米SC)
ニューコアNUE394億$12.6倍+8.6%6.9%恩恵(競合排除)
ロックウェルROK426億$27.6倍+11.9%17.5%恩恵(FA需要)

データ出典: yfinance(2026年3月6日取得)。PERはフォワードベース。

日本企業への波及

関税は米国内の話だが、日本の製造業にも無関係ではない。

自動車メーカーにとっては複雑な構図だ。トヨタ(TM)は米国内に大規模な生産拠点を持ち、直接的な関税影響は限定的だ。しかし4月2日の自動車関税免除期限が切れた場合、日本からの完成車輸出が打撃を受ける可能性がある。フォワードPER14.0倍と米デトロイト勢(GM: 5.5倍、F: 6.7倍)に比べて高いバリュエーションは、この「免除延長」への期待を含んでいるとも読める。

工作機械メーカーには追い風が吹く可能性がある。ファナック(6954.T)やコマツ(6301.T)は、米国内での新工場建設が増えれば受注増が期待できる。ファナックのPER37.5倍は割高に映るが、リショアリングという構造的トレンドが数年続くのであれば、成長プレミアムとして正当化される余地はある。

USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)とは?
NAFTAに代わり2020年に発効した北米3カ国の貿易協定。自動車の原産地規則を厳格化し、域内での付加価値比率75%以上を求めている。関税はこの協定の枠組み外で課されるため、USMCAで最適化されたサプライチェーンが突然コスト増に直面するという矛盾が生じている。

個人投資家への示唆

関税ショック第2波は、製造業セクターの中での「選別」を促す。注目すべきポイントは3つある。

第一に、米国内生産比率を見ること。 同じ工業セクターでも、原材料や部品をどこから調達しているかで関税の影響は天と地ほど違う。ニューコアのように関税を「味方」にできる企業と、キャタピラーのように「敵」に回る企業を区別する視点が重要だ。

第二に、4月2日の自動車関税免除期限に注目すること。 免除が延長されるか否かで、自動車セクター全体の方向性が決まる。フォードやGMだけでなく、日本の自動車メーカーや部品サプライヤーにも大きな影響が及ぶ。この期限は市場全体の方向性を左右するイベントとして注視が必要だ。

第三に、リショアリングを「一過性のテーマ」と見ないこと。 関税政策は政権交代で変わりうるが、サプライチェーンの再構築は一度始まれば5〜10年の構造変化となる。工場自動化(ROK)、電力インフラ(ETN)、国産素材(NUE)といった銘柄群は、関税の有無にかかわらず恩恵を受け続ける可能性がある。

まとめ

  • 関税第2波はダウとNASDAQの6倍の格差に表れた。 製造業・素材セクターが直撃を受けており、キャタピラーは3週間で9%下落した
  • 勝者と敗者の分かれ目は「米国内生産比率」にある。 ニューコア、イートン、ロックウェルなど国内基盤の強い企業にはむしろ追い風が吹く
  • 4月2日の自動車関税免除期限が次の分水嶺。 自動車セクターだけでなく、日本の製造業にも波及する重要イベントとして注視すべきだ

本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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